京都府立植物園 桜散歩レポート

日本の桜と染井吉野の今について

 

加茂川河川敷の染井吉野

京都市左京区 京都府立植物園近く北山大橋

 

 日本の春を告げる桜は、11種類の野生種が元になり、栽培もしくは自然交配した品種は約300から400種類とも言われます。


薔薇と同じくバラ科の樹木で、草ではなく寿命も長いことから、日本中に樹齢1000年以上の銘木も見られます。

  

 桜を過去から今につなぐために、これまで桜を愛する様々な方々のご尽力があったことを、京都府立植物園で開催された『サトザクラ展』と『桜散歩』を通して知ることが出来ました。

 

そして未来の日本へ桜咲く美しい春を繋いで行けますように、今回私が学ばせていただいた桜の今についてお伝えします。

 

2022年4月20日

 

 

桜『キンキマメザクラ』

京都市左京区 京都府立植物園

 

 私は今回、京都府立植物園にて2022年4月15日(金)に開催された『桜散歩』に参加させていただきました。

 

同日は『サトザクラ展』も開催されていて、園内に見られる桜約180種を展示されていました。京都府立植物園ではバックヤードで育てられている桜を含めると、約200種類500本もの桜があるそうです。

 

展覧会では、桜についての基礎知識から、日本の桜がこれまで広く愛されてきた歴史のわかるボタニカルアートや芸術作品、京都の名所等にどのような桜が植樹されたかがわかる資料など、桜について様々な角度からわかりやすく紹介された説明展示がなされていてとても勉強になりました。

 

園内の各エリアごとの桜の植栽図は、来年また桜のスケッチに来る際に本当に助かるなと、ありがたく記録させていただきました。

 

 

日本に自生する桜の原種

(京都府立植物園 サトザクラ展より)

 

 

桜『麒麟』

(京都府立植物園 サトザクラ展より)

 


 サトザクラ展は、3日間開催されていて桜散歩も毎日開催されていました。待ちきれなかった私は初日の15日に伺ってきました。

 

募集人数は30名とありましたが、それをはるかに上回る参加者がおられました。

 

案内してくださったのは、京都府立植物園 樹木医の中井貞氏で、約1時間園内の桜を巡る桜散歩が始まりました。

 

 

桜『朱雀』

京都市左京区 京都府立植物園

 

 桜散歩は、植物園中央の大芝生広場に植樹されている、日本の代表的な桜であるソメイヨシノから始まりました。

 

今回はサトザクラ展にちなんだ桜散歩だったので、ソメイヨシノの開花時期は過ぎていましたが、昨今ソメイヨシノの古木化が進み未来の日本で見られなくなるのではとささやかれていることもあり、ソメイヨシノの現状についてとても知りたかったです。

 

 

ソメイヨシノの古木から芽吹いた、新しい幹

 

 古くから『桜切るバカ、梅切らぬバカ』ということわざがある様に、ことわざには樹形の見た目の話だけではなく、桜は元来腐りやすい植物で、選定による傷からどうしても経年を経て腐ってきてしまうからと言われ、

 

その為、近年危惧されているソメイヨシノは寿命が短いと言われる要因は、朽ちてしまった幹を見て枯れたのだと誤った判断をされて、伐採してしまうことも要因の一つだそうです。

 

 

元気に葉を広げているソメイヨシノの様子

 

 しかしながらよく見ると、古木の幹からは無数の新しい細い血管のような管が出ていて、それが地面に届き根っこになっていくことで、見た目は枯れているように見えても、とても元気な状態であるということを教えてくださいました。

 

その様子は本当に感動的で、植物の底力はやっぱり素晴らしいと、長年植物を描いてきてまた惚れ直しました。

 

 

幹から出た新芽が、地面に下がって根になるソメイヨシノ

 

 ソメイヨシノは、種子を作らず人の手によって接ぎ木で増やされたクローン桜のため、その生態は日本全国全く同じであるから、桜前線という日本の春の訪れを告げる観測の目安に使われると教えてくださいました。

 

よくソメイヨシノに種子が出来ているのをみる事がありますが、それは他の種との交配で出来たもので、種を植えてもソメイヨシノには決してならず別の種類の桜になるようです。

 

ソメイヨシノは、同木の中で交配しづらくする特性を持つ為、他の木との実を結びやすいとされ、あえてその種固有の遺伝子を保っているかのようです。


絵描きの私には全く知らなかった専門的なお話に、植物の生きる知恵の多様性を知り、またわくわくしてきました。

 

 現在では次世代の桜として、ソメイヨシノを親に持つジンダイアケボノの普及が広まっていますが、ソメイヨシノの本質を沢山の方が理解されて、これからも日本の桜として愛されつながれていくことを願っています。

 

 

桜『市原虎の尾』

京都市左京区 京都府立植物園

 

 

桜『万里香』

京都市左京区 京都府立植物園

 


 明治維新の文明開化で、それまでの日本文化が古いものとされ、欧米文化以外のものが淘汰されてしまう時代がありました。

 

桜もその影響を受け、江戸時代まで愛されてきた里桜ではなく、新時代に似合うとされた一瞬で咲いて見事に散るソメイヨシノが、全国に一機に広がったそうです。

 

その為、現在も桜はすぐ散るものの代名詞となりましたが、本来の桜の姿がそうであったわけではありません、と中井さんは話してくださいました。

 

 薔薇の世界でもそうですが、薔薇もかつて四季咲きのモダンローズが流行ると、それまでの春に一季咲きのオールドローズが消えてしまう危機に陥りました。

 

しかし薔薇も桜も、古きよきものを残していこうと考える人々の多大なご尽力があったお陰で、現在も出会うことが出来ます。

 

サトザクラ展でも、明治・大正・昭和と古くからの桜を、大切に繋いでこられた方々の活動について詳しく説明されていました。

 

 歴史の中で様々な方の力があって、京都府立植物園の桜が残っている。その桜を次世代に残していくことは大切な役目だと思っていると、過去からの遺産を未来へつないでいくことを切に願われていました。

 

 

 桜は園芸品種だけではなく自然交配もある生体が複雑な植物で、専門家であっても品種の特定が難しい時があるそうです。

 

上部写真の京都府立植物園を代表する桜『大原渚桜』も長い間、全国で京都府立植物園にしかない桜とされていましたが、数年前にDNA鑑定を行い、東京の新宿御苑に植樹されている『汀の桜』と同種であることが発見されました。

 

平安時代に、時の上皇が大原にて宴の際に和歌で『みぎわ・・』という言葉を使ったことから東京の桜はその名が残り、京都では『おおはら・・』という地名が残ったのではと、長い歴史を経て現代の科学のお陰で結びついた奇跡を、教えてくださりました。

 

 

桜『普賢象』

京都市左京区 京都府立植物園

 

  桜散歩の途中、他にもそのような現場の方ならではのエピソードを沢山うかがうことが出来、ちょうどその時も富山中央植物園から桜の調査にお見えになっていた大原隆明氏に出会うことが出来ました。

 

 大原氏は、現在日本の桜博士と呼ばれる著名な方で、富山中央植物園にも120種類の桜があるそうですが、京都府立植物園の桜コレクションはそこにもないものが多数あると、熱心に桜をお調べになられていました。

 

私の祖母の暮らした飛騨神岡の名前の付いた『神岡桜』について、教えてもらえたら嬉しいなと桜散歩のあとでご挨拶すると、桜博士は優しい笑顔で朗らかに接してくださりました。

 

 

桜『松月』

京都市左京区 京都府立植物園

 

 今回の桜散歩で紹介していただいた桜21種は以下の通りです。

 

①染井吉野②八重紅枝垂桜③大島桜➃日暮⑤市原虎の尾⑥紅提灯⑦松月⑧万里香⑨手毬⑩菊桜⑪太白⑫山桜⑬霞桜⑭鬱金⑮普賢象⑯関山⑰大原渚桜⑱園山黄桜⑲御衣黄⑳佐野桜㉑雨宿

 

中井さんの桜にまつわるお話はどれもとても興味深く、あっという間の桜散歩でした。今年の春すでにスケッチしていた桜についてより深く学べたこと、そして知らなかった桜をまた描きたいと思ったこと、連日のスケッチでフラフラではありましたが参加出来て本当に良かったです。

 

 

100年前の開園当初に植えられたヒマラヤ杉

京都市左京区 京都府立植物園

 

 

 

川端康成の小説『古都』にも登場する楠並木

京都市左京区 京都府立植物園


 中井さんは桜散歩の括りの言葉として、「植物園はお金の価値ではない大切な場所である。しかし来てもらってしかわかってもらえない。何度も足を運んでください。」そして、京都府立植物園のここにしかない桜を大切にして行きたいと話しておられました。

 

 2024年に開園100周年を迎える京都府立植物園が、100年後の未来にもそのまた先の未来にも地球の宝物にあふれるかけがえのない場所であり続けることを願ってやみません。サトザクラ展開催と桜散歩本当にありがとうございました。

 

 

桜『糸括』

京都市左京区 京都府立植物園

 

 

日本の桜 染井吉野

京都市左京区 京都府立植物園近く北山大橋